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神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)277号 判決 1989年2月22日

原告

岸本勝明

被告

義田晴一

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告に対し、金一八一万四九三二円とこれに対する昭和六一年九月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告義田晴一は原告に対し、金二七万九五〇五円とこれに対する昭和六一年九月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は四分し、その三を原告の、その一を被告らの負担とする。

五  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告(請求の趣旨)

1  被告らは原告に対し、連帯して、金七七六万八五九一円とこれに対する昭和六一年九月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら(請求の趣旨に対する答弁)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告(請求原因)

1  交通事故の発生

(一) 日時 昭和六一年九月二七日午前一〇時五分ころ

(二) 場所 神戸市垂水区名谷町猿倉八一番地先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車両 普通乗用自動車(神戸五九め九三三七。以下「被告車両」という。)

運転者 被告義田晴一(以下「被告晴一」という。)

所有者 被告義田博康(以下「被告博康」という。)

(四) 態様 被告晴一が被告車両を運転し南進中、本件交差点で急遽左方に進路変更するにあたり、適宜合図をして左折の合図をすることはもちろん左後方の安全を確認をしつつ進路変更すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、左後方の安全未確認のまま左へ進路変更した過失により、左後方から南進してきた原告運転の自動二輪車(以下「原告車両」という。)右後部に自動車左側面前部を衝突させ、原告を転倒させ傷害を負わせた。

2  責任原因

本件事故は、被告晴一の前記過失により発生したものであるから、同被告は自賠法三条、民法七〇九条により、また、被告博康は被告車両の保有者であるから自賠法三条によりそれぞれ原告の損害を賠償する責任がある。

3  受傷・治療経過並びに後遺症

(一) 受傷

右肩甲骨・右下腿両骨骨折、右肩・右下腿・右前腿・両手打撲及び挫創

(二) 治療経過

昭和六一年九月二七日から同年一二月一六日まで大澤病院に入院

同年一二月一七日から同六二年六月八日まで同病院に通院(実治療日数七六日間)

(三) 後遺症

昭和六二年六月八日 症状固定

右膝関節痛(特に下り坂、階段)

右肩関節運動制限(前挙 〇―一六〇度、側挙 〇―一三五度、外旋 〇―一〇度)

右足脛に、ひもで強くしばりつけた感じの痛みがたえず、走ることができない。右腕は十分あがらず動かすたびに肩の関節がズキンと痛み、左手親指を動かすと関節が痛む。

右は、自賠責保険後遺障害の少なくとも一二級に該当する。

4  損害

(一) 治療費 金二三八万四四〇八円

(二) 入院付添看護費 金五四万六五六〇円

(三) 入院諸雑費 金九万七二〇〇円

一二〇〇円×八一日

(四) 看護婦に対する謝礼(ストツキング) 金九一二〇円

(五) 通院交通費 金二万四三二〇円

バス料金として一六〇円×二×七六日

(六) 杖代金 金五〇〇〇円

通院後歩行のために必要となつた。

(七) 自動二輪車修理費等(物損) 金二七万九五〇五円

(八) 休業損害 金二六三万六二一二円

内訳

(1) 原告の事故前三か月平均の平均月収 金二五万六九五八円

事故日から症状固定日までか月の逸失利益 金二一六万七〇一二円

(2) 一時金 金四六万九二〇〇円

昭和六一年冬 差額(一律支給部分) 金一七万七七〇〇円

昭和六二年夏 差額(一律部分) 金一八万一五〇〇円

(成績部分) 金七万円

(報奨金) 金四万円

(九) 入・通院慰藉料 金一六〇万円

(一〇) 後遺症逸失利益 金二〇六万一九八二円

右(八)の平均収入に同一時金(二九万一五〇〇円)の一二分の一を加算した金二八万一二四九円を基礎月収とする。

労働能力喪失率 一四パーセント

労働能力喪失期間五年(ホフマン係数四・三六四)

二八万一二四九円×一二×〇・一四×四・三六四=二〇六万一九八二円

(一一) 後遺症慰藉料 金二二〇万円

(一二) 損害てん補 合計金四七七万五七一六円

内訳

治療費として 金二三八万四四〇八円

入院付添看護費として 金五四万六五六〇円

物損の内金として 金一五万円

休業補償の内金として 金一六九万四七四八円

(一三) 弁護士費用 金七〇万円

5  結論

よつて、原告は被告らに対し、連帯して、本件損害金七七六万八五九一円とこれに対する本件事故発生の日である昭和六一年九月二七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告ら(請求原因に対する認否)

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。但し、被告博康は自賠法三条の責任を負うにすぎないから、物的損害についての賠償責任はない。

3  同3(一)(二)の事実は認め、同(三)の事実は否認し、その主張は争う。原告は自賠責保険に後遺症保険金の被害者請求をしたが、後遺障害等級は非該当であつた。

4  同4(一)、(二)、(五)、(七)、(一二)の事実は認め、その余は争う。

休業損害は最大限昭和六二年四月末日までの期間認められるにすぎない。

三  被告ら(抗弁)

本件事故は、被告晴一が被告車両を運転して本件交差点に向け時速約一〇キロメートルの速度で南進中、右交差点手前で一旦左折の合図をして左折を開始したが直ちに合図を中止して左後方の安全不確認のまま約一〇・一メートル左へ左折を続行した結果、折から左後方から南進してきた原告車両と衝突した事故であるところ、本件事故発生につき、原告にも、被告車両の動静不注視の過失があつたものというべきである。

本件損害額の算定にあたつては、原告の右過失(少なくとも二割)が斟酌されるべきである。

四  原告(抗弁に対する認否)

否認する。本件事故は、原告車両が本件交差点を直進していたところ、右折の合図をだしていた被告車両が突然左折したため発生した事故であり、原告に全く不注意は存しない。

第三証拠

本件記録中の証拠目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故の発生)、同2(責任原因)の各事実については当事者間に争いがない。

右事実によれば、被告晴一は自賠法三条及び民法七〇九条により、被告博康は自賠法三条により本件事故により発生した損害(但し、自賠法三条による責任は人的損害に限る。)を賠償する責任がある。

二  受傷・治療経過並びに後遺症の有無

1  請求原因3(一)、(二)の事実は当事者間に争いがなく、右当事者間に争いのない事実に成立に争いのない甲第三、第九号証、乙第一号証、証人大澤和弘の証言並びに原告本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く。)を総合すると、原告は本件事故により右肩甲骨々折、右大腿両骨々折、右肩・右下腿・両手打撲創の傷害を負い、昭和六一年九月二七日から同年一二月一六日まで八一日間大澤病院に入院し、同月一七日から昭和六二年六月八日まで同病院に通院(実治療日数七六日間)して治療を受けたこと、その間、入院当初より右肩を装具で固定し、昭和六一年一一月一〇日まで右大腿から前足までギブスで固定し、同月一七日から理学療法が開始されたこと、昭和六二年六月八日右傷害は「下り坂(歩行時)や階段の昇降時の右膝関節痛(自覚症状)、右肩運動制限(前方拳上〇~一六〇度、左肩(正常)可動範囲〇~一八〇度。側方挙上〇~一三五度、左肩(正常)可動範囲〇~一八〇度。外旋〇~一〇度、正常可動範囲〇~五〇度。)」の症状を残して治療を終了したことが認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する供述部分は採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は右残存症状について自賠責後遺症保険金の被害者請求手続をしたが非該当との判断を受けたことが認められるところ、右事実に前認定の残存症状の部位。程度並びに証人大澤和弘の証言を総合すると、右残存症状は、日常の生活動作にほとんど影響を及ぼさない程度の軽微なものであると認められるから、右残存症状は自賠法施行令別表に定められた後遺症には該当しないものと認めるのが相当である。

右事実によれば、原告は本件事故により前認定の傷害を負い、右傷害は、右残存症状(自賠法施行令別表の後遺症には該当しない程度のもので、後記のとおり、慰藉料の一事由にとどまるもの。)を残して、昭和六二年六月八日治療が終了し、ほぼ治癒したものと認めるのが相当である。

三  過失相殺

前記当事者間に争いがない請求原因1の事実にいずれも成立に争いのない甲第一、第二号証、乙第二ないし第六号証並びに原告本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く。)を総合すると、被告晴一は被告車両を運転して県道神戸明石線(片側一車線)を北から南に向け喫茶店を探しながら進行し、本件交差点を左折するか、直進するか、南西方向の「七曲り」方面に向う道路に進むか迷いながら同交差点に差しかかつたが、左後方の安全確認を全くしないまま、突然道路中央線付近から左折合図をすると同時に時速約一〇キロメートルの速度で左折を開始し、ために左折開始地点から約二ないし三メートル東側の地点で、後方から時速約二五キロメートルの速度で前記車線の左側部分を進行してきた原告運転の原告車両(自動二輪車)右後部側面部に被告車両左前部を衝突させたことが認められる。なお、衝突地点につき原告本人は実況見分調書添付図面に記載されている衝突地点(被告車両の左折開始地点から約四メートル東側の地点)は正確ではなくほぼ本件交差点中央付近であつた旨主張するところ、右記載は、本件交差点に残されたオイル流出の痕跡や原告車両の転倒時の擦過痕、原告・被告車両の停止位置など客観的資料を基礎に作成されたものと推認されるから、おおむね正確なものと認められるけれども、右記載は立会人であつた一方当事者である被告晴一の説明のみにより作成されたものであること、衝突により単車である原告車両が東方向へ移動したうえ転倒したため交差点に残された擦過痕等は、衝突地点よりも東側の位置となつている可能性があることを考慮すると衝突地点は右実況見分調書添付図面の記載位置よりも若干西側であつた可能性は残るものと認めるのが相当である。右のとおり、原告本人の右供述はおおむね採用しがたいものではあるが、右認定の限度では採用できる部分があるものと思料する

右事実によれば、被告晴一が本件交差点手前の中央線付近から左寄りをせず、左折合図を著るしく遅れてなし(無合図に準じる)、かつ左後方の安全確認を全くしないまま、突然左折を開始したことが本件事故の主たる原因ではあるが、原告にも軽度の前方不注視ないしは被告車両の左側通り抜け可能との判断過誤があつたものと認めるのが相当であり、本件損害額の算定にあたつては、原告の右過失を斟酌するのが相当である。

そして、右原告・被告晴一の過失の内容・程度その他本件記録にあらわれた諸般の事情を総合考慮すると、過失割合は、原告一〇パーセント、被告ら九〇パーセントと認めるのが相当である。

四  損害

1  治療費 金二三八万四四〇八円

付添看護費 金五四万六五六〇円

通院交通費 金二万四三二〇円

請求原因4(一)、(二)、(五)の各事実は当事者間に争いがないから、原告が本件事故により被つた右費目の損害は右記載の金額が相当であると認める。

2  入院雑費 金九万七二〇〇円

前認定の八一日間の入院雑費としては、一日一二〇〇円の割合で計算した金九万七二〇〇円をもつて本件事故と相当因果関係のある損害であると認める。

3  看護婦に対する謝礼 金九一二〇円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和六一年一二月一五日ストツキング二四点を代金九一二〇円で購入し、前認定の大澤病院の看護婦に入院中の謝礼として交付したことが認められるところ、右は本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

4  杖代金 金五〇〇〇円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第六号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和六一年一二月二〇日歩行用杖を代金五五〇〇円で購入し、退院後の歩行の用に供していたことが認められるところ、右代金中原告請求にかかる金五〇〇〇円をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

5  原告車両修理費用等の物損 金二七万九五〇五円

請求原因4(七)の事実は当事者間に争いがないから、本件事故により原告が被つた物的損害は金二七万九五〇五円であると認める。なお、後記のとおり、右損害について、被告博康は自賠法三条の責任を負うにすぎないから賠償責任はない。

6  休業損害 金二四三万四一八〇円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七、第八号証、甲第一〇、第一一号証の各一、二、前掲乙第一号証、証人大澤和弘の証言並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時タクシー運転手として都市交通株式会社に勤務し、一日平均八七五九円の収入(ただし、賞与は除く。)をえていたこと、原告は本件事故により休業し、昭和六二年六月二一日から職場に復帰したが、大澤医師の所見によれば、少なくとも昭和六二年五月から(事務職ならば同年二月ころから可能)タクシー運転業務に就労可能とされていること、証拠は極めて不備であるが、都市交通株式会社の証明によると、本件事故により原告は金三二万三二六一円の賞与の減額を受けたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そこで、本件事故による休業損害としては、休業期間二四一日(客観的に就労可能ではあるが現実に就労しなかつたと認めるべき昭和六二年五月一日から同年六月二〇日までの五一日間についてはうち二五日をもつて休業期間と認めるのが相当である。)賞与を除く日収金八七五九円、賞与減額金三二万三二六一円を基礎に算出すべきところ、その額は、次の計算式のとおり金二四三万四一八〇円となる。

8,759×241+323,261=2,434,180

7  慰謝料 金一六〇万円

前認定の本件事故の態様、原告の傷害の部位・程度、入・通院期間、治療経過、残存症状その他本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すると、本件事故により原告が被つた精神的苦痛を慰藉すべき慰藉料としては金一六〇万円をもつて相当であると認める。

8  前認定のとおり、原告の残存症状は自賠法施行令別表記載の後遺症には該当しないものであり、原告の労働能力を減じさせているものとは認めるに足らないから、原告主張の後遺症逸失利益(ただし、右7において慰謝料の一事由としては斟酌した。)、後遺症慰謝料の費目の損害は認めるに足らない。

9  過失相殺による減額

以上1ないし7記載の損害額合計は金七三八万〇二九三円(物損を除く損害額は金七一〇万〇七八八円)となるところ、前認定の過失割合(原告一〇パーセント、被告側九〇パーセント)に従つて計算すると、過失相殺後の損害額は、金六六四万二二六三円(物損を除くそれは金六三九万〇七〇九円。いずれも円未満切捨。以下同じ。)となる。

10  損益相殺

請求原因4(一二)の事実(原告が被告らからすでに金四七七万五七一六円の支払を受けたこと)は当事者間に争いがないから、右過失相殺後の損害額からこれを控除すると、損益相殺後の損害額は金一八六万六五四七円(物損を除くそれは金一六一万四九三二円)となる。

11  弁護士費用

原告が弁護士である原告訴訟代理人に本件訴訟を委任していることは本件記録上明らかであり、相当額の着手金、報酬を右代理人に支払うべきことは弁論の全趣旨により認められるところ、本件訴訟の内容、経過、立証の難易、認容額等諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある損害として被告に請求しうべき弁護士費用は金二〇万円をもつて相当であると認める。

五  結論

以上の次第であるから、原告の本件請求は、被告ら各自に対し、人的損害の合計金一八一万四九三二円、被告晴一に対し、右以外に本件事故による物的損害金二七万九五〇五円並びに右各金員に対する本件事故発生の日である昭和六一年九月二七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉森研二)

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